EUは今年の夏が終わるまでに70%の人口に新型コロナのワクチン接種をすることを目標にしています。
新型コロナのパンデミックが始まって以来目を覆うような被害を出し、何度も大きな感染の波に見舞われている欧州。ワクチン接種がこのパンデミックを収めるための肝になると早いうちからワクチン確保に動いていました。
そして満を持しに年明け早々接種が始まったのですが、当初の計画ほどは順調に進んでいないんですよね。
わたしが暮らすスペインでは先日サンチェス首相が改めて夏の終わりまでに人口の70%にワクチン接種すると宣言したのですが、ここまで次々に問題が出てきていることで懐疑的に見る人が多くなっています。
ここでは欧州のワクチン接種のここまでの過程や、副反応についてこれまでわかっていることをまとめておきたいと思います。
欧州でワクチン接種が遅れている理由
欧州でワクチン接種が遅れている理由はワクチン接種開始当初とある程度進んだ今とでかなり変わります。
・ワクチン接種開始当初 → ワクチンが予定通り入ってこないことと国内でワクチン接種のシステムがうまく機能していなかったことによる遅れ
・2021年4月現在 → ワクチンの副反応が発覚したことによる遅れ
ワクチン接種開始当初は製薬会社から当初の約束通りの量のワクチンが入ってこないことでワクチン計画に狂いが出ていました。
EUはEU内の国同士でのワクチン争奪戦を防ぐために加盟国分のワクチンをEU政府がまとめて確保し、人口に応じて加盟国に分配するという方法をとっています。
そのこともあり製薬会社(とくにアストラゼネカ)とEU政府がワクチン納品の遅れでバチバチに火花を散らし、とうとうEUがEU域内で生産されたワクチンを他の地域に輸出するにはEUの許可が必要という措置を導入する事態になりました。
実際納入が遅れている中イタリアで完成済みなのに放置されている大量のアストラゼネカのワクチンが見つかったりして問題になったんですよね。
この辺りはイギリスとEUの駆け引きというか、イギリスのEU離脱のしこりが関係しているのではとも言われています。
ただファイザーのワクチンの供給量が落ち着いてきたのに加え、第4のワクチンであるヤンセン(ジョンソン・エンド・ジョンソン)のワクチンも承認されたためこのワクチン不足は解決の兆しが見えていました。
ワクチンの副反応が問題になりワクチン接種計画にさらなる遅れが
何となくワクチン接種が軌道に乗りそうな雰囲気になったタイミングで今度はワクチンの副反応が問題になり始めました。
アストラゼネカのワクチンの場合
アストラゼネカのワクチンは欧州で承認前からたびたび話題に上がっていました。
まずEUの医薬品庁(EMA)が承認手続き中の時に、ドイツの保健省が高齢者への治験が不足しているのではないかという疑問を呈しました。
最終的にEUの医薬品庁は全年代に有効という結論を出したのですが、ドイツの発言を受けアストラゼネカのワクチンは65歳以下の人に接種するという方針を打ち出す国が続出しました。
スペインでは当初アストラゼネカのワクチンは55歳以下のエッセンシャルワーカー(学校の先生、警察官、消防隊員など)に接種するという方針を取り、大都市圏では大きな会場を借りて大規模な集団接種が行われていたんですよね。
そんな中EU各国からアストラゼネカのワクチン接種後に血栓ができた人がいるという報告が上がり、多くの国がアストラゼネカのワクチン接種を一時停止しました。
スペインでも40代の女性が脳血栓で命を落としています。
この事態を受けてEUの医薬品庁は再度アストラゼネカのワクチンの調査をしましたが、この時はアストラゼネカのワクチンと血栓の間に因果関係は認められないという結論が出されたんです。
これを受けて接種再開になったのですがその後も血栓の報告が続き、再度行われた会合でEUの医薬品庁はとうとう血栓はアストラゼネカのワクチンの副反応である可能性が高いと認めました。
ただ血栓ができるのは100万人に4人程度のものすごく低い確率なことに加え、コロナ感染予防の効果はしっかりあるということで接種するメリットは打たないデメリットに勝ると結論付けられています。
これを受けスペインではアストラゼネカのワクチンの対象者を60代の人だけに絞ったのですが、副反応報道の直後は接種拒否する人が結構いたようですね。
ただ今後時間が経つにつれて接種しようとする人がまた増えてくるだろうと言われています。
とはいえ欧州ではデンマークが今後アストラゼネカのワクチンは使用しないと発表しました。
今まで散々変更されてきたアストラゼネカのワクチン接種の方針ですが、今後また変わる可能性もあるのではと思います。
アストラゼネカのワクチンを1回だけ接種した人は今後どうなる?
スペインには教師や警察官等エッセンシャルワーカーで、アストラゼネカのワクチンを1回だけ接種したという人が数万人単位でいます。
アストラゼネカのワクチンは2回接種しないといけませんが、この1回打っただけの人たちの2回目の接種をどうするかが今問題になっています。
方針変更で60歳から65歳の人だけが対象になったので、この年齢以外で1回だけ接種した人はルール通りに行くともう対象外なので接種できないことになります。
1回だけだと効果は70%くらいしかなく、かといって血栓ができる可能性があるワクチンをまたできやすい年齢層の人たちに接種するのもどうかと思います。
フランスやドイツは2回目の接種はアストラゼネカでなくファイザーかモデルナを使うと決めたようですが、スペインはまだどうなるのか決まっていません。
初納入直前にヤンセンのワクチンにも血栓の副反応の疑い
ヤンセン(ジョンソン・エンド・ジョンソン)のワクチンは他のワクチンと違い1回だけの接種でいいということから、ワクチン計画促進のために大きな期待をかけられていました。
3月にEUで承認されてからなかなか入ってこなかったのですが、やっと4月に初納入びが決まったところでヤンセンのワクチンでも血栓が報告されたというニュースが入ってきました。
EUの医薬品庁は再調査に乗り出していたのですが、その結果が出る前に先行で接種していたアメリカがヤンセンのワクチン接種の一時停止を勧告しました。
これを受けてEUへの初納入の日の1日前にヤンセンからEUへの納品を遅らせると発表されることになります。
スペイン政府は『アストラゼネカを使わなくてもワクチン接種計画は達成できる』と言っていたのですが、ヤンセンのワクチンもとなると流石に話は変わってくるでしょう。
少し前まではわたしも夏にはワクチンが打てるかなと考えていたのですが、まだまだ先になる可能性が高くなっています。
ワクチンの副反応で血栓ができる仕組みと女性に多い理由
これまでアストラゼネカやヤンセンのワクチンで血栓ができる仕組みがよくわかってなかったのですが、ドイツとオーストリアの専門家がその仕組みを解明しています。
ワクチン接種で血液中の血小板が減少することにより血栓ができるとのことなんですよね。
中高年の方は血栓ができやすいと言いますが、この血小板が減少することによる血栓は一般的な血栓とは仕組みが違い治療法も変わってくるらしいです。
なぜワクチンを打って血液中の血小板が減少するのかについてはまだ解明されていませんが、おそらくワクチンに使われているアデノウイルスが原因なのではと言われています。
血栓ができるのがアストラゼネカとヤンセンというウイルスベクターのワクチンだけで、mRNAワクチンのファイザーとモデルナでは血栓ができたという報告がないからです。
なぜ血栓を発症する人に若い女性が多いのか
これまでワクチン接種の後に血栓症を発症したのは、圧倒的に30代から50代の女性が多いんです。
ただなぜ30代から50代という比較的若い世代の女性に多いのかの理由はまだはっきりわかっていないんですよね。とはいえいくつかの仮説は存在します。
- 女性は男性より元々免疫活動が活発なのでこういった合併症にかかりやすい
- ピルを飲んでいる場合に血栓発症のリスクが上がるという説
ピルを飲んでいる女性がアストラゼネカのワクチンで血栓ができやすいというのは、この血栓問題が出て来た当初から可能性として言われていました。
そもそもこのワクチンで発生するのと同じタイプの血栓ができるという副作用はピルにもあるし、30代から40代でピルを服用している女性は多いです。
相乗効果があってより血栓ができやすくなるのではと考える人が出てくるのもわかります。ただこれはまだ証明されてはいません。
また女性が多いとはいうものの、男性でも血栓ができた人はいます。
スペインでは血栓ができた中で亡くなった方は男女1人ずつの合計2人です。
参考にスペインの4月14日現在のデータを載せておくと、アストラゼネカのワクチン接種した人が250万人以上でその後血栓ができた人は13人。亡くなったのが2人です。
EU全体ではアストラゼネカのワクチン接種した人が3,500万人以上でその後血栓ができた人は222人。
ピルで血栓ができる確率が1万人に9人と言われているので、それと比べれば少ないですよね。ただだからといってアストラゼネカのワクチンを接種する不安がなくなるかというとそんなに簡単には納得できないかなという気がします。
まとめ
EUは来年度のアストラゼネカとヤンセンとのワクチン購入契約について、更新しないと発表しました。
今後は新しいワクチンが出てこない限りファイザーとモデルナ中心でいくのかなと思います。
ドイツが独自にロシアのスプートニクと契約すると言っていますが、どうなるのでしょうか。
世界的パンデミックを何とか抑えるために急造したワクチンを使っているため、今後新しい問題が出てこないとも限りません。
ただスペインの人たちはどちらかというと社会のため、生活を取り戻すために順番が来れば打つという人の方が多いです。
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